作家プロフィール

作家プロフィール

色の面白さ、不思議さに魅せられ、染めの世界へ。

私が染めの世界に身を置くようになったのは、2002年、石彫家であるパートナーと出会い、色々な作家さんとのグループ展のお手伝いをしたときに初めて染色の作品(洋服やストール)を目にし、色の面白さ、不思議さに感動したことに始まります。
最初は作品を購入して身につけていたのですが、2004年も終わりを迎える頃に父が亡くなり、何か創り出すことがしたいという思いが一気に溢れて、石彫でも木工でもない、染色に向かいました。
染め始めた頃は会社員でしたので、休日や帰宅してからの時間を染めの作業に当てていました。2005年にはクラフトフェアに初出展。2006年にはグループ展に参加し、並行して春と秋にメンバーを変えて地元でのグループ展を始め、ギャラリーでの展示会の依頼もいただくようになりました。
その間、正社員からパートに変えてもらいながらもお勤めは続けていたのですが、どちらも中途半端になると悩んでいました。そんなとき、先輩の作家さんが「安定など考えたこともない」と高らかに笑いながら仰ったのを聞いて、それまでのモヤモヤしたものがストンと落ち、翌日退職の意志を伝えました。2013年11月のことです。

自然と折り合いながら、一枚一枚心を込めて。

柿渋液を1本買って始めた染め。柿渋液に布を浸けて干す、ということだけは知っていたものの、しっかり調べて勉強してというプロセスが苦手で、まずは実践。何を知らないのかすら分からないスタートでした。茶色に染まった布を見て感動。鉄媒染をかけて黒っぽく変化したのを見て感動。ただただ、楽しんで布と向かい合っていました。
そのうち、「こんな色で、こんな風合いで」と意図して染めても、布の種類やお天気の具合、染料の濃度などで、なかなか求めるような結果が得られなかったり、逆に思った以上の色をいただいたり。ある時から、染め上がりのイメージをある程度念頭に置くものの、あとはお任せしようと思うようになりました。「きれいな色に染まってね」と布に話しかけながら…..。
profimg1

お客様とともに美しい時を刻む。そんな作品を作りたい。

布を染める作業はほとんど屋外。夏は全身汗ダク、冬は手が凍るようになってお湯で温めながら。「大変ですね」と言われることがありますが、幸いにも、辛いと思ったことは一度もなく、夢中でやってきました。
辛かったのは、染めの作業ができなくなったとき。「染めたい」という思いが湧いてこないのです。1日、2日ならどうということがないのですが、1週間、2週間そんな状況が続くと、焦りも出てきます。もの作りをする人につきものの壁、生み出す苦しみ。「作りたいもの」と「求められるもの」の間で生じる葛藤に苦しんだこともありました。
そんな時に支えてくれたのは、クラフトで知り合った作家仲間たちとの他愛のない会話。お客様の「次回も楽しみにしていますね」「あなたのお洋服を着ると幸せな気持ちになるの」といった言葉にも力をいただきました。お客様が私を育ててくださった。心からそう思います。
湧き立つ思いで始めた染め。時折、見とれてしまう程美しい色をいただくことがありますが、次の瞬間、「まだまだ…」といった感じで、何か探し物をしているように染めを続けています。キリがなく、終わりもなく….。

profile2
江本眞弓 愛知県西尾市生まれ
2005年春
染め作家としての本格的な活動を開始。
2005年秋
クラフトフェア初出展。
2006年
愛知県西尾市でグループ展を開催。以後、毎年開催。
2007年〜
クラフティア杜の市(信州駒ヶ根)」「浜名湖アートクラフトフェア」はじめ、全国各地のクラフトフェア、ギャラリー企画展に多数出品。
2010年〜2013年
西尾市生涯学習市民講座にて柿渋染の講師を務める。
2018年春
長野県駒ヶ根市に移住し、新たな活動拠点に。

「布から発想を得てカタチにする」という一見シンプルな服や小物は、袖を通したときのシルエットが美しく、ところどころに小さな仕掛けや大人の遊び心もあり、年齢を問わず多くのファンを持つ。